que's queer things

脊髄あたりを撫でては摩る何かを

山岳地帯で口笛を吹きたい

スイスで安楽死ツアーというものがあるらしい。

人生の最後としてはとても美しいと思うけども、風景でも堪能しているうちに生きる気力が湧いてきてしまいそうだ。

 

人の死、というものについて考える。

まだ若く健康な後輩が自死を選んだことがあった。悲しいよりも、辛かったろうなよりも、勿体無いなと思った。

真面目だったが故の葛藤があったんだろうし、他人には窺い知れない事情や苦悩もあったんだろう。それでも、傍目から見る限り、社会にも出ずに人生を終えてしまっていいような前途のない若者ではなかった。この子の人生は永遠に喪われてしまったのだ。生きていたら「あったかもしれない」幸せや希望の実現は2度と叶わない。

 

自殺そのものは恐ろしくない。自殺に就いて考へるのは、死の刹那の苦痛でなくして、死の決行された瞬時に於ける、取り返しのつかない悔恨である。

「自殺」という言葉が頭をよぎる、そんな時にいつもふと頭に浮かぶのは、萩原朔太郎の「自殺の恐ろしさ」という文章である。死の瞬間に想起されるかもしれない、様々な後悔。なるほどこれは「その瞬間」にしかわからないことだし、わからないからこそ恐怖なのである。

 

色々な人間がいると思う。いまが楽しくて仕方がないひと、死ぬなんて考えたこともないぐらい人生を謳歌しているひと。

でも、多くの人間にとっての生きる理由は、むしろ未来にあるんじゃないだろうか。「夢」「希望」「期待」。「いつか王子様が現れる」なんて夢想から、「宝くじ当たるかも」。「夏のボーナスが出たらあの服を買おう」とか、もっと近いところでいえば「週末は美味しいものを食べてゆっくりしよう」。未来の事象に希望を抱いて、現在の苦痛をやり過ごす。普通のことだ。

だから、本当に辛くて仕方がないときでも、私たちは「やまない雨はない」なんて嘯きながらなんとか今を耐えるのだ。視点は未来に向いている。朝起きたら、このプロジェクトが終わったら、転職に成功したら、それまでは貝のように耐える。

そういうことが一種の普通になっているからこそ、私たちは後悔を想像するのだ。なぜ生きているのか?という疑問に対して、私自身は答えを持っていない。まして楽しいと思って生きている瞬間など、過去の数十年間の中の1%にも満たないだろう。ではどんな時が楽しいのか、と言われれば、それは未来に希望が持てる時だ。何故生きているのかという質問にかろうじて答えをひねり出すのであれば、「もしかしたら万が一、天文学的確率で未来が明るいかもしれないから」だ。つまり思考は未来に向かっている。

 

ここから認知心理学的「now, here」な話をするのは今度にして、未来というのは生きる上て大切なキーワードだ。死を選んだ彼にとって、未来は永遠に続く真っ暗なトンネルのように見えたのだろう。第三者にとってそうは見えないものであっても、人の世界は見えるもの・感じられるものだけで構成されているのだ。永遠に続く目の前の暗闇。生きてりゃいいことあるよなんて、そんな甘言めいたことはとても考えられなかったんだろう。生きていたら「あったかもしれない」幸せや希望とか、死の瞬間の後悔であるとか、そんなものは全て消え失せたあとだったんだろう。彼が見ていたであろうビジョン、それを想像すると苦しくなる。

 

私は彼の死をもったいないと思った。トンネル的な一人称視点ではなく、あくまで第三者として、彼を俯瞰してそう思った。

 

かといって、さて自分自身の話になってしまえば、やはりトンネルビジョンの真っ只中で、何一つうまくいっていないなと思うことしきりだ。そしてそういう時は大体、過去の人生を振り返って、やはり同じようにうまくいかないことを拾い上げては、失敗の追体験を幾度となく繰り返すのだ。生き物には学習性無力感というものがあるので、複数回似たような失敗があれば、その先の失敗をも予想することは難くない。こうして視野はどんどんと狭まり、自分の行く先のイメージから色彩は失われ、失敗まみれの未来予想図が出来上がるわけだ。

 

「生きてりゃいいことある」が人生のコンパスだとする。では「生きててもいいこと、もうないよ」。それを実感を持って感じ取ってしまった時点で、絶望以外の道は絶たれてしまう。個別の理由はどうあれ、彼が死を決意するプロセスもそうだったんだろうと思っているし、私はそのことをとても悲しい決断だったと思う。それなのに、人の人生が喪われることを無念がっていたその頭で、自分の人生の喪失についてはどうでも良くなってしまうのである。矛盾というやつだ。

 

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他者の期待に振り回されることほど虚しいことはないのだが

他者の期待に振り回されている。

認められる側じゃなくて、認める側になればいいのかもねぇ。