que's queer things

脊髄あたりを撫でては摩る何かを

"people today are seeking freedom"

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見よ、この女性のあふれんばかりの解放感、

そしていささか暑苦しいぐらいに強調された「FREEDOM」の文字。

 

これはベンゾジアゼピン系の向精神薬、オキサゼパムの商品名であるseraxの広告。

薬剤としては主に不安障害やアルコール離脱症状の治療に用いられる、ようです。

Serax (oxazepam) medical facts from Drugs.com

 

しかしこのモノクロームの写真の中で歓喜を表現する女性、

明らかに病室から抜け出してきて着の身着のままだし

なんかこの勢いが逆に異常なテンションを醸し出してるし

 

この広告を見て、こんなに効くんだ!と効果を期待するか

むしろ穏やかでない空気を感じるかは人それぞれなんじゃないかな。

ん、私は後者です。

"When I'm all tensed up, driving relaxes me."

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見開かれた目、固く食いしばられた歯が

まるで何かの衝撃を受けたかのように上下にぶれている。

(それは交通事故の瞬間のように!)

思わず目を背けたくなる衝撃的なビジュアル。

 

細かい文章は潰れてしまっていてきちんと読めないけど

どうやら過度の緊張状態の時に運転するのはやめましょう、という啓蒙広告のようだ。

つまりこのコピー、逆説的に使われているみたい。

mobilといえば、車のオイルで有名なあの会社ですね。

 

緊張状態のこわばり・事故の衝撃を二重写しに表現しつつ

あぁ、今日は調子が悪いからドライブはやめておこう・・

思わずそんな気分にさせる、なんとも秀逸な広告。

 

"Mobil - We want you to live."

(モービル - あなたに生きていてほしい)

"end to his violent outburst"

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Thorazine / ソラジン

 

「ソラジン」というメジャートランキライザーの広告。

成分はクロルプロマジンで、日本ではウィンタミンやコントミンとして製品化されている。

 

when the patient lashes out against "them" -

(患者が"彼ら"と戦い始めたら-)

の"them"ー大きな恐怖の目が、見ている側にも恐怖を喚起するインパクトのあるビジュアル。

 

余計な色は入れない、余計な遊びもいらない。

ただドーパミンが生んだ恐怖の姿をストレートに表現した広告。

 

画質のせいでちょっと文字が震えてるように見えるのがまた

なんとも言えない不安の影を醸し出してて、いいな。

 

幻覚と対峙している患者さんがへっぴり腰なのも、妙にリアル。

"when gentleness is important"

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Nembutal / ネブンタール

 

これはアボット社が1930年に発売したネブンタールという鎮静睡眠薬の広告。

成分はペントバルビタール

主な用途は麻酔、不安緊張状態鎮静、不眠症、痙攣の抑制。

獣医学においては安楽死にも用いられるらしい。

 

そんなことからも分かるように

"when gentleness is important"なんてコピーが入っているくせに

過剰摂取時の致死率1位を誇るラジカルな睡眠薬

過去には死刑執行に使われたこともあるらしい。

過去と言っても2010年。最近!

 

そんなバックグラウンドを知った上で

これからこの薬を服用するのであろうこの子供のイラストを眺めていると

妙に乾いたタッチで描かれた、この見開かれた死んだ魚のような目に

少し背筋の寒さを覚えるものです。

 

古い広告は現代のような妙なシズル感がない分

感情が読めない不穏さみたいなものがあって、そこが個人的には好きなポイントというか。

押し付けてこない分怖いのよね。

 

そしてこの味わい深いイラストもさることながら、

文字に使われた朱赤とモノトーンのシンプルな色合い

ゆるゆる組まれた文字組みがたまらない。

 

重たいテーマの割に、まるで絵本のようなトーンがとても好き。